現代はストレス社会と言われており、大人や子供、お年寄りまで、様々な年代や性別の人がそれぞれの悩みを抱える時代です。
メンタルケアも重要視されるようになり、会社や学校にカウンセラーが配置されたり、巡回したりすることも珍しくなくなってきました。
また、カウンセリングを受けることに対する理解が深まったり、抵抗感が薄れたりして、より多くの人がカウンセラーのお世話になるようになってきています。
自分も助けてもらった経験などから、悩んでいる人、苦しんでいる人に寄り添って、その辛さから抜け出すサポートがしたくてカウンセラー職を目指す人もいらっしゃるでしょう。
就職に直結する資格はどれになりますか?
この記事では、カウンセラー職に直結する資格として人気の、臨床心理士について解説します。
資格取得について考えた時に気になる以下の3点について、皆さんの疑問を解消します。
・臨床心理士ってどんな資格?活かせる業務は?
・臨床心理士資格の取り方は?
・独学でも合格できる?
スクールカウンセラーや児童心理司になりたいなら、臨床心理士は取得を検討したほうがいい資格の一つです。
この記事を読んで、理解を深めちゃいましょう!
目次
臨床心理士資格について
ではまず、臨床心理士とはどんな資格か、臨床心理士の資格保持者が行う仕事は何か、について見ていきましょう。
気になる就職先と、収入についてもお伝えします。
臨床心理士ってどんな資格?
臨床心理士とは、公益財団法人 日本臨床心理士資格認定協会が認定する、臨床心理についての専門家であると証明する資格です。
カウンセラーとして働く人はそのほとんどがこの資格を取得して仕事についており、現在最もメジャーな資格となります。
民間資格なので、この資格を持っていなくとも心理専門職につくことはできます。
ですが、実際には心理専門職につくためには臨床心理士や公認心理師、産業カウンセラー、精神科医などの資格が必要となるケースがほとんどです。
臨床心理士は、以下の専門的な行為を業務として行います。
・心理テストを使ったり、面接を行ったりして、クライエント(相談者)の特徴や、問題点がどこにあるのかを明らかにする。また、どのようなアプローチでの助けが必要なのかを見抜く。(臨床心理査定)
・クライエントに対して、様々な技法(精神分析や集団心理療法、行動療法など)を利用して、その悩みや辛さに対しての助けとなる活動を行う。(臨床心理面接)
・学校や地域、職場などのコミュニティを対象としての心の援助活動を行う。(臨床心理的地域援助)
・自分の行った心理的援助活動などに関して研究・調査し、発表する。(臨床心理査定・臨床心理面接・臨床心理的地域援助についての研究・調査)
心理学を利用する職業の中でも、直接クライエントに対応して問題解決を図ることを専門としています。
臨床心理士になるにはこのような業務に必要な、以下の能力を求められます。
試験でも、この4つの能力があるかどうかがチェックされます。
・相談者の心の問題を見つける能力
・相談者の心の問題が解決できるように手助けする能力
・皆が心の問題を抱えないように、学校や会社にアドバイスする能力
・自分の仕事について研究と発表をする能力
また、実際に仕事をするにあたっては、以下の能力も重要となります。
・相手の細かい仕草や態度から感情の機微を読み取ることができる観察力
・クライエント自身の言葉を引き出すことができるコミュニケーション能力も重要となります。
・クライエント自身やその問題に振り回されない心の強さ
中でも、心の強さは重要となります。
クライエントに寄り添うことは大切ですが、同時にプロとしては自分の感情とは切り離して考えることができないといけません。
そうでないと自分の心の健康を保つことができず、カウンセラーを続けていけないからです。
臨床心理士は、医者のように「心を治す」のではありません。
クライエントに寄り添って、その人自身が立ち直り、健全に自分を実現するようになるまでの手伝いをする専門家です。
相談してきた人と同じ目線になって物事を捉え、話を聞く態度が求められます。
業務では、心理学的知識を活用するだけでなく、1人1人に合わせた対応で信頼関係を得ることが重要になります。
その点に、難しさと同時にやりがいを感じやすい仕事と言えるでしょう。
ちなみに、臨床心理士は民間資格ですが、臨床心理の国家資格として2018年から新しく公認心理師という資格が作られました。
まだできたばかりで、臨床心理士と公認心理師の立ち位置の違いなどははっきりしていませんが、臨床心理士は現在最も重要視されており、これからも存続することが決まっています。
臨床心理士資格を活かせる仕事
では、臨床心理士の能力と資格を活かせる就職先には、どのようなところがあるでしょうか。
・病院や精神科のクリニック ・学校のスクールカウンセラー ・自治体の教育相談室や児童相談所 ・大学や専門学校で研究者になる、後進の育成を担う ・療育施設 ・一般企業の企業内相談室 ・裁判所や少年院
などが主な就職先としてあげられます。
心理に関する資格なので、分野に関わらず人が多くいるところには必要とされる資格です。
実際に働く現場によって、どんな業務にウエイトが置かれるかは異なります。
たとえばクリニックや病院で働く場合は、心理テストなどでクライエントの状態を明らかにし、医師たちと連携してクライエントの問題の対処に当たります。
スクールカウンセラーであれば、生徒や保護者の個別の悩みに対応するだけでなく、学校全体へのアドバイスなども求められるでしょう。
最近需要が増えてきた療育施設などでは、児童発達心理に基づき、子供の困りごとを減らし、保護者の方へ、子供への接し方を説明します。
他にも、高齢者支援や犯罪被害者等支援などの幅広い分野で活躍することができます。
特に就職先として多いのが、学校にスクールカウンセラーとして派遣される、あるいは就職する、という形です。
臨床心理士は令和2年4月現在で37,249名いますが、そのうち5,000人程度がスクールカウンセラーとして働いています。
最近では、カウンセリングルームなどを自分で開いて独立する人も増えてきています。
病院や公的施設で働くことと比べ、クライエントにより身近で親しみやすい存在となることができますね。
臨床心理士の収入
ここで気になるのは、臨床心理士の収入ではないでしょうか。
臨床心理士の年収は、平均すると年収300万円~500万円程度と言われています。
1000万円台の人もいると言われますが、それはかなりのレアケースとなります。
専門職なのに意外と安い…と思われるかもしれません。
それは、臨床心理士の資格を生かした就職の多くが、非常勤勤務での採用となっているからなのです。
先程あげたスクールカウンセラーもほぼ非常勤勤務です。
求人の価格帯としては、アルバイトやパートの時給としては1,500円程度~、正社員でも月22万~のものが多くなります。
自治体での採用や裁判所などで働く場合は公務員となる場合もありますが、あまり数は多くありません。
カウンセラーは、残念ながら、バリバリ働いてたくさん稼ぐ、というのはなかなか難しい職種となってきます。
しかし、非常勤でもある程度の収入は見込めますので、自分に合った働き方がしやすいでしょう。
臨床心理士資格保持者への需要は高いので、一度辞めても再就職先を見つけることはさほど難しくないでしょう。
臨床心理士資格のとり方
臨床心理士の資格を取るには、受験資格を満たした上で試験に合格する必要があります。
ここでは、受験資格と受験の内容についてご説明します。
受験資格
これから臨床心理士になりたいという人が試験の受験資格を得るには、
・日本臨床心理士資格認定協会が指定する大学院(第1種)を修了する
・協会が指定する大学院(第2種)を修了し、その後1年以上臨床心理に関わる仕事をする
・臨床心理士養成のための専門職大学院を修了する
・外国で協会が指定する大学院と同等レベル以上の教育を受け、日本で2年以上の臨床心理に関わる仕事をする
・医師免許を持っていて、医師免許取得後2年以上臨床心理に関わる仕事をする
のどれかを満たす必要があります。
協会が指定する大学院には2種類あり、卒業後に実務経験が必要ないとしている学校を第1種、1年間の実務経験を必要とする学校を第2種としています。
第1種に指定されている大学院は全国に150校、第2種に指定されている大学院は全国に12校、専門職大学院は全国に6校あります。
合わせて167校もある(九州大学は第1種指定大学院と専門職大学院両方を設置しています)ので、心理学系ならだいたいどこでも大丈夫なのでは?と思ってしまいそうですが、心理学系専攻でも指定されていない学校は数多くあります。
これから大学の進路を考えているカウンセラー志望の中学生、高校生は必ず指定大学かどうかを確認してから進学するようにしましょう。
中には放送大学大学院や東京福祉大学大学院など、通信制の大学院も存在しています。
すでに社会人の人や、働きながらカウンセラーになることを目指す人などは、時間はかかってしまいますし、かなりの努力も必要とされますが、こちらを利用すれば仕事やプライベートと学業の両立が可能となります。
また、「臨床心理に関わる仕事をする」とは、カウンセラーや相談員として実際に雇われることを指します。
ボランティア活動や、学校や病院で働いていても別業務の場合はカウントされないので、その点にも注意が必要です。
臨床心理士の資格は、取るための最低ラインが「心理学系の大学院卒業」なので、かなり受験資格としては厳しいものとなっています。
しかしそのかわり、臨床心理士は民間資格でありながら、圧倒的な知名度を誇り、持っているだけで臨床心理のエキスパートとして信頼されることができるのです。
受験内容
臨床心理士の試験には、一次試験と二次試験とがあります。
〈一次試験〉
・100題のマークシート(2時間30分)
・論文記述試験(1時間30分)
〈二次試験〉
・口述面接試験
一次試験の2つの問題は、同日に行われます。
マークシートでは、臨床心理士の4つの基本業務についての能力(臨床心理査定・臨床心理面接・臨床心理的地域援助・それら研究調査)についての知識と、それに関連する法律や姿勢が問われます。
単なる暗記ではなく、臨床的に活用できる、生きた総合的能力があるかを問う問題が出題されています。
論文記述試験では、臨床心理に関するテーマが1題出されるので、1,001字以上1,200字以内の範囲で論述します。
論理的に、分かりやすく解答を書くだけでなく、スピードも求められる試験となっています。
二次試験の面接試験は、一次試験の合格者のみ行われます。
2人の面接官に対し、1人で面接を受ける形式となっています。
聞かれる内容としては、
・一次試験の出来はどうだったか
・今まで学んできたことをこれからどう活かしたいか
・修士論文の内容を簡単に説明してください
などが聞かれているそうですが、面接官や回答者によってかなり質問はバラバラのようです。
特に研究が多かった人は、臨床経験があまりない点を突っ込まれることが多いそうなので、対策を練っておいたほうがいいかもしれませんね。
ここでは単なる受験者としてではなく、「カウンセラー」としての対応が見られています。
相手の求める回答を返すことはもちろんですが、それ以上に、カウンセラーとしての、落ち着きがあって相手に振り回されない態度で臨むことが求められます。
試験は年に1回行われます。
10月に一次試験(筆記試験)、12月に二次試験(口述面接試験)というスケジュールです。
この資格審査に合格するだけでなく、その後に資格認定証書の交付手続きを完了して、ようやく臨床心理士としての資格認定が行われます。
臨床心理士の難易度・合格率
臨床心理士の合格率は、ここ10年ほどは60~65%程度となっています。
2019年度の合格率は62.7%です。
(データ参照元:財団法人日本臨床心理士資格認定協会)
合格率だけを見ればさほど低くはありませんが、ほぼ全員が修士以上であり、大学と院合わせて最低でも6年間学んだことを問われているということを考えると、かなり難しい試験であると言えるのではないでしょうか。
臨床心理士って独学でもなれる?
臨床心理士の資格は、心理学系の大学院、専門大学院の卒業(もしくは医師免許)が受験資格として必要です。
大学や院で学んだ知識が必要となるので、独学で取ることはできません。
臨床心理士だけでなく、公認心理師や学校心理士など、ある程度の権威があり、心理学系の職業につく時に利用できる資格は、最低でも大学で心理学を学んでいることが条件となります。
カウンセラーになるために資格は必要ないとはいえ、実際に心理専門職につきたい場合には独学では難しいでしょう。
心理学系の資格は数多く、臨床心理士のような取得が難しいものから独学や数ヶ月の通信講座で取れるものまであります。
資格取得の目的が、「カウンセラーなどの心理専門職につきたい!」ではなく、「人事など、今の仕事に活かしたい」「家族や友人の話をよりよく聞けるようになりたい」という場合であれば、独学での資格でも十分活用できるでしょう。
以下におすすめの資格を挙げておきます。
メンタルヘルス・マネジメント検定 | https://www.mental-health.ne.jp/ | (独学可能)会社でのメンタルヘルスケアについて 人事担当・監督者向け |
メンタル心理カウンセラー | https://www.jadp-society.or.jp/course/mental/ | (通信講座)在宅試験可能 資格取得まで2ヶ月程度と短期間 |
心理学検定 | http://jupaken.jp/ | (独学可能)合格者は学会に入会し、さらに上位の資格を目指すことが可能 |
臨床心理士資格とは まとめ
臨床心理士資格とは、心理学系の資格の中では最もメジャーな資格でした。
カウンセラーになるために求められることが多く、資格取得が臨床心理のエキスパートとしての仕事に直結します。
・心の問題を見つける
・問題が解決できるように手助けする
・メンタルヘルス面から学校や会社にアドバイスする能力
・臨床心理についての研究と発表をする能力
が、臨床心理士に必要とされる能力となります。
試験は年に1回で、マークシートと論述問題の一次試験、面接の二次試験があります。
受験資格としては心理学系の指定された大学院の卒業が必要となるので、独学で資格を取得することは不可能でした。
臨床心理士は難易度も高く、試験を受ける資格も心理学系の院卒と厳しいので、本気で心理学を一生の仕事にしたい!と考える人向けの資格です。
そのかわりに、取得すればスクールカウンセラーなどへの道がひらけます。
カウンセラーを目指す方は、検討してみてはいかがでしょうか。