発達障害に対しては最近周知が進んできたばかりですが、最近の研究では10人に1人程度は発達障害なのではないか、と言われており、とても身近なものとなっています。
そのため、小学校や中学校にも通級クラスや特別支援学級などが設置され、入試や授業でも対応や配慮が求められるようになってきています。
そのような時に有効なのが、発達障害のある子供の教育についての専門家である「特別支援教育士」の資格です。
今回の記事では、特別支援教育士について、以下のことをご説明します。
・特別支援教育士とは?
・特別支援教育士の仕事内容は?
・資格のとり方は?
・難易度は?
発達障害のある子どもに対する支援は、これからの教育では避けられない重要なテーマになってきます。
今、徐々に注目が高まってきている特別支援教育士について、資格取得を考えている人はぜひご覧ください。
目次
特別支援教育士とは?
特別支援教育士とは、LD(学習障害)やADHD(注意欠陥・多動性障害)、ASD(自閉スペクトラム症)などの障害を持った子どもに対する、評価とその子どもごとに合わせた指導に関する専門資格です。
一般財団法人 特別支援教育士資格認定協会が認定する資格で、民間資格となっており、実際に発達障害の子どもへの指導や支援を行う先生やカウンセラーなど向けの資格となっています。
特別支援教育、というと目が見えなかったり難聴だったり、あるいは知的障害があったり肢体不自由だったりする子どもに対する教育を思い浮かべがちですが、この「特別支援教育士」で扱うのは発達障害の特性を持つ子どもについてのみとなっています。
2004年度まではLD教育士という名前でしたが、教育支援の対象はLDだけではないことから、現在の特別支援教育士という名前に変更されました。
英語で書くと Special Educational Needs Specialist になるため、「S.E.N.S」という略称を使用されることもあります。
また、上位資格として、特別支援教育士スーパーバイザー(S.E.N.S-SV)があります。
こちらは、単に発達障害についての知識やスキルがあるだけでなく、他の特別支援教育士に対して、指導や助言をする能力を持っていることを証明します。
特別支援教育のリーダーとして活躍できる実力と経験を兼ね備えた人に対しての資格です。
どんな職業で活かせるの?
特別支援教育士の資格がないと就けない職業はありませんが、資格の勉強をする中で、子どもを支援する上で役に立つ技能を身につけられます。
実際に子どもと接する上で、その子の困りごとを解決するにはどうしたらいいのか、を適切に考えられるようになります。
資格取得のために実務経験も必要となってきますので、実際に特性のある子どもと接することの多い教育関係、たとえば学校の先生やカウンセラー、療育施設の先生などが取得し、実際の指導で活かすケースが多いようです。
また、塾や放課後等デイサービスの事業所などで、有資格者を条件とした求人も多数あります。
児童発達支援センターなどの療育施設は現在需要が急増しており、新しく開所する施設が増えているので、有資格者は貴重な戦力とされているのです。
資格を持っていると、それらの施設に就職する際に有利であったり、給料面で優遇されたりする場合があります。
ただし、実際に子どもを支援する仕事に就こうと考えた時には、教員免許や臨床カウンセラー、児童発達支援管理責任者など、職業・職種によっては別の資格が必要となる場合がありますので注意しましょう。
特別支援教育士の仕事内容は?
先ほども触れた通り、「特別支援教育士」という仕事は存在しません。
専門的な知識と技術を持っている、という証明となる資格なので、特別支援教育士の資格を持っていても、実際の仕事は学校の先生だったりカウンセラーだったり、理学療法士だったり……ということになります。
ですが、特別支援教育士の資格があるからこそできる業務、というのはあります。
それは、子どもの発達障害についてのアセスメント(評価)をすることです。
発達障害を評価する上で重要な、WISC(児童用のウェクスラー式知能検査)という知能検査があります。
この検査によって、発達障害や知的障害かどうかの判断材料とするだけでなく、その子どもの得意な部分、苦手な部分などを明らかにできます。
通常は病院や教育センターなどでしか受けられず、また受けるまで何ヶ月も予約待ちをすることもあるこの知能検査を、特別支援教育士は行えるようになります。
他にこのWISCができるのは臨床心理士や医師、心理学等の博士号をもつ人などとされているので、特別支援教育士にかなりの能力が認められているということが分かりますね。
また、個別の支援計画や教育指導計画などを立てられるようにもなります。
発達障害は人によって症状や困りごとが異なり、効果のある対応も違うので、一人ひとりに合わせた指導計画を作ることが必要なのです。
例えば、絵カードを使ってみたり、黒板などに1日の流れを書いておく、文字の読み書きが苦手な子にタブレットやPCの利用を許可する、などの工夫のうち、どの方法があっているか、などを適切に選択したり、克服すべき目標に向けてどう指導するかなどを決定できるのです。
指導計画に従って、他の先生や職員も一貫した対応をすることになるので、子どもが学校や事業所で楽しく過ごせるかどうかがかかっていると言っても過言ではない、重要なものとなります。
学校現場で個別の指導計画を作るために資格は必要ありませんが、正しい知識や対応方法を知らないと、計画を作成することはできません。
特別支援教育士としての知識とスキルがあれば、自分が作成するときだけでなく、他の先生が個別の指導計画を立てる時にアドバイスや助言などをできるようになります。
(放課後等デイサービスなどでは、個別支援計画を立てるために児童発達支援管理責任者の資格が必要となります)
また、知識や正しい対応を考えられるようになるので、学校で起こりやすい子どもたちの学習面や友人関係、心理面でのトラブルなどにも正しく対応できるようになります。
なぜそうなってしまったのか、繰り返さないためにはどうすればいいのか、が分かるので、表面的な対応ではなく、より根本的な解決や対処をすることができます。
子ども本人だけでなく、どうしたらいいか分からず困っている生徒の家族や、発達障害についての知識のない教師などを総合的に支援する力を身につけられるのです。
特別支援教育士の資格のとり方は?
では、特別支援教育士の資格はどうやったら取れるのでしょうか。
簡単にいうと、特別支援教育士の資格を取るためには3つのステップが必要となります。
ステップ1 養成セミナーの受講資格を取得する
ステップ2 養成セミナーを受講してポイントを取得する
ステップ3 資格認定審査に合格する
以下、それぞれのステップについて細かくご説明します。
特別支援教育士養成セミナーの受講資格とは
まず第1のステップ、一般社団法人日本LD学会の正会員になることが養成セミナーの受講条件となります。
LD学会入会の条件は以下のとおりです。
・LDに関する研究や治療、教育などに関わっている者で、4年制大学卒以上の学歴がある者
・短期大学・専門学校卒であり、言語聴覚士、作業療法士、看護士、保育士などの資格を持ち、教育や医療、福祉などの領域で仕事をしている者
そして、入会には正会員の推薦者が必要となります。
自分の周りに専門家がいないために特別支援教育士を志した場合などは、LD学会員の知り合いがおらず、推薦者を探すのに苦労する人も多いようです。
入会申請はネットからできますが、審査日が1ヶ月に1回定められているため、申請してすぐに入会できるわけではありません。
最短でも3週間程度はかかりますので、余裕を持って申請する必要があります。
特別支援教育士養成セミナーを受講する
次は養成セミナーを受講し、資格認定審査出願要件であるポイントを集める必要があります。
養成セミナーには受講登録期間、すなわち受講できる期間が決まっており、3年間(延長した場合は6年間)のうちに36ポイントを集めなければなりません。
ポイントとは…
セミナーを受講し、最後の小テストに合格することでポイントが加算されます。
3時間のセミナー:1ポイント
6時間のセミナー:2ポイント
セミナーは年間15回、関東・関西・中部などで開催されています。
セミナー開催数だけ見れば1年でもポイントを集めきれそうですが、開催地がバラバラなことや、自分の受けたいセミナーが丁度良く開催されないなどの問題もあり、通常はポイントを集めるのに早くとも2年がかかると言われています。
特に地方在住の方には、仕事の合間を縫ってこのポイントを集めることが最大の難関となっているようです。
セミナーに出席し、30ポイントを取得したら、最後の6ポイント分は「指導実習」となっています。
これは3日間かけて実際の事例から情報収集やWISCのやり方、個別の指導計画の作成などを学ぶものです。
「筆記試験より指導実習のほうが大変だった」という体験談も多いので、とても濃い三日間のようです。
最後にレポートを提出し、合格と認められたら、やっと認定審査を受けられます。
資格認定審査を受けるには?
資格認定審査に出願するには、LD学会員となり、養成セミナーを受講して36ポイントを集める以外にも条件があります。
・指定大学院を修了している
・大学院で、協会指定の大学教員の指導を受けてLD、ADHDなどの研究と臨床に1年以上関わった
・大学院、大学、短期大学、専門学校などの卒業生で、学校の教員や医療・福祉などの専門職として2年以上常勤で働いている
もしくは、これら以外の発達障害に関連する仕事で、3000時間以上業務に従事していた
指定大学院は京都教育大学・愛媛大学・兵庫教育大学・鳴門教育大学・香川大学・宮崎大学の6つしかありません。
それぞれ特別支援や発達心理専攻のコースのみが認められています。
資格試験は、年に1回行われます。
・書類審査
・筆記試験
の2つが課されています。
書類審査は申請資格を満たしているかのチェックです。
筆記試験は、90分間、マークシート方式の試験となっています。
特別支援教育士筆記試験の難易度は?
気になるペーパーテストの難易度ですが、残念ながら特別支援教育士の合格率や合格点などは公表されていません。
ですが、
・仲間の5人のうち3人が落ちた
・2年がかりでやっと合格した
・テキストのすべての範囲から出題される。基本的なものももちろんあるが、かなり細かいところまで聞かれることも
などの体験談がありました。
テキストが多いこともあり、簡単に合格するものではなさそうですね。
また、何年もかけてセミナーに少しずつ通い、仕事をしながらの試験になるので、どうしても集中して勉強する時間が取りにくくなってしまいます。
ペーパーテストの内容は、2019年は全部で32問の五者択一式となっているようです。
ほとんどは正誤問題となっており、正しい内容の組み合わせを選ぶようになっているそうです。
ただし、過去には100題近い問題が出たり、記述式が出題されていたこともあるので、これからも試験傾向は変動していく可能性があります。
【まとめ】特別支援教育士とは
特別支援教育士とは、発達障害の子どもに関する指導をする専門家としての知識とスキル、経験を証明する資格でした。
仕事内容は?
・「特別支援教育士」という職業はない
・知能検査のWISCを行えるようになる
・生徒や児童に対し、個別の指導計画を立てられる
資格を取得するには?
・LD学会員になる、養成セミナーを受講する、書類審査と筆記試験に合格する、のすべての条件をクリアする必要がある
筆記試験の難易度について
・合格点、合格率は非公開だが、かなり難しいと考えられる
発達障害などの子どもに対する教育現場での取り組みはまだ注目され始めたばかりであり、まだ知識不足で悩む現場も多くあります。
段々と注目が高まってきている資格なので、今のうちから資格取得に向けて動いてみてはいかがでしょうか。
似た資格についてもこちらで記事にしているので参考にしてみて下さい。