現代の日本では核家族化が進んでおり、家庭内の問題が表面に出にくい状態にあると言われています。
離婚に限らずDVや虐待、毒親と言った問題もありますし、そこまで深刻にならなくとも、家族間における悩みはつきません。
皆様も、親の介護問題や配偶者との関係などに一度は悩んだことがあるのではないでしょうか。
家族間の問題はプライベートな内容とも密接に関わっているので、他人にはなかなか相談しにくいものです。
しかし、家族全体で当事者意識を持って問題に取り組まなくてはならない場合が多いので、自分1人だけでは解決できずにただ毎日悩みを深めるばかりになってしまいます。
そんな家族の問題に関する仕事をするカウンセラー向けに、家族心理士という資格があります。
この記事では、家族心理士について、以下の3点をご説明します。
・家族心理士とはどんな資格か
・家族心理士になるにはどうしたらいいか
・家族相談士との違いについて
これから注目されるであろう家族心理士について、一足先に勉強しちゃいましょう!
目次
家族心理士とは
家族心理士とは何か、まだ資格保有者が多くないため、詳しく知らないという人も多いかもしれません。
家族問題についてのカウンセラー、ということは字面で分かっても、どんな資格なのか、いまいちピンと来ないのではないでしょうか。
家族問題でカウンセラーにかかったことのある人のほうが少ないでしょうし、問題も子育てや介護、夫婦関係など多岐にわたっているのでイメージがしづらいですよね。
まず、家族心理士がどのような仕事をしているのか、そして資格を活かせる職業はなにか、から見ていきましょう。
家族心理士ってどんな資格?どんな仕事をしているの?
家族心理士とは、家族間における問題に関する臨床心理のエキスパートであることを証明する資格です。
具体的にいうならば、資格としては、家族関係や子育て支援、非行や介護問題などについての臨床心理分野についての知識があり、実際にカウンセラー等として働いている実績がある、ということを示しています。
仕事としては、以下のことをします。
・家族が関係する諸問題(離婚やステップファミリー、介護など)について、カウンセリングなどを通じて、家族の1人1人が問題を解決していけるように支援する
・家族問題についての研究をする
・家族問題を起こしにくくするためのアドバイスをする
家族間の問題であっても、その理由となる部分は必ずしも家族内にだけあるとは限りません。
たとえば、会社でストレスを受けた男性が家でDVを働く…という場合があるんですね。
ですから、家族心理士には家族内だけでなく、個人ごとの背景となる会社や学校などについての視点と知識も必要となってきます。
家族心理士の資格が生かせる職業は?
家族心理士の資格が活かせる仕事としては、以下のようなものがあります。
・教育関係:保育園、学校
・福祉関係:老人ホーム、養護施設、作業所
・医療関係:病院、クリニック
・行政関係:市町村の相談窓口、家庭裁判所調停委員
その他、家族問題についての講演活動や家族カウンセリングについてのセミナーなどを開催することもあります。
また、「気軽に家族問題について相談して欲しい」という思いから、カウンセリングルームを開いている人もいます。
家族問題は家族間だけでなく、家族が関連する他の人間関係(会社や学校など)とも密接に関連するので、家族心理士には様々な分野での活躍が期待されます。
家族心理士、という資格自体にまだあまり知名度はありませんが、これから注目されていくのではないでしょうか。
家族心理士になるには?
それでは、家族心理士になるためにはどうしたらいいのでしょうか。
ここでは、
・どんな試験なのか
・受験資格は何か
・受験にかかる費用は?
についてご説明します。
家族心理士になるための試験は?
家族心理士になるためには、
・書類審査
・面接審査
の2つの審査に合格しなくてはなりません。
書類審査では、申請条件を満たしていることを示す書類だけでなく事例報告書の提出も必要となります。
事例報告書はA4で3ページ以内という指定がついています。
詳細に説明するのではなく、試験官にも読みやすいよう簡潔にまとめて分かりやすく整理することが求められていますね。
面接審査は年に1回、10月頃に行われます。
面接についての詳細を知りたい!という方もおられるかもしれませんが、残念ながら何を聞かれたか、という情報はありませんでした。
しかし、事例報告書を事前に提出しているので、その事例についての詳細や、それまで自分が行ってきたカウンセリング経験について聞かれる可能性は高いと考えられます。
提出した事例報告書は必ず自分の手元にも控えを残しておき、想定される質問に対しての返答を用意しておいたり、面接直前に見返したりしておいたほうがいいでしょう。
これには、「臨床経験を重視している」のと、「すでにプロとして働いている人向けの資格なので、家族心理学についての知識は前提である」という2つの理由が考えられます。知識がなくてもいいという意味ではないので、注意が必要です。
受験資格は?
家族心理士になるための受験資格には、基本的には4つのパターンがあります。
・家族心理臨床研修センターが行う「家族心理士研修課程」を修了し、その後1000時間以上の家族に関する心理学的援助についての臨床経験があること。
・大学院博士前期課程(修士課程)にて、家族心理学の臨床分野においての研究で修士号を取得した後、1000時間以上の家族に関する心理学的援助についての臨床経験があること。
・臨床心理士、公認心理師、認定カウンセラー、シニア産業カウンセラー等のいずれかの資格を持ち、資格取得後に1000時間以上、かつ1年以上の家族に関する心理学的援助についての臨床経験があること。
・「家族相談士」の資格取得後、家族心理学の臨床分野においての研究を行い、1000時間以上、かつ2年以上の家族に関する心理学的援助についての臨床経験があること。
・上記のどれかと同等の資格条件を持つこと
※ここでの「臨床経験」とは、家族療法の理論に基づいたアドバイスや助言、家族カウンセリングを実際に行ったりした経験などと、それに対してのスーパーヴィジョン(自分の行ったカウンセリングについて、指導者や専門家からアドバイスや指導などを受け、それを自らのカウンセリングに反映させること)を受けた経験があることを指しています。
※ここでの「研究」とは、リサーチ論文や事例研究論文などを実際に公表した業績があることを指しています。
「家族心理士研修課程」は、2019年度に閉講されているので、これから家族心理士になりたいと考えた場合の道程は、現在は3パターンしかないということになります。
修士課程修了はもちろん、臨床心理士や家族相談士などの資格取得から家族心理士を目指すとしても、最低1000時間以上の臨床経験が必須であり、場合によっては1年から2年、研究発表の実績も必要など、どれにしても受験資格にはかなりのハードルがあるといえるでしょう。
1000時間以上の臨床経験、というと、週休2日で1日8時間働いていたとしても半年程度かかります。
そこまで長い期間ではありませんが、家族心理やカウンセリングについての実践的な力を持っていることを重要視していることが分かりますね。
単にカウンセラーや相談員としての心理専門職として働いた経験が必要なのではなく、スーパーヴィジョンを受けた経験まで問うのが独特ですね。
また、修士課程で家族関係についての臨床心理についての研究をしていることや、家族相談士として研究実績が必要な所から、研究能力も同時に求められていることも分かりますね。
臨床心理士や家族相談士になることから大変なのに、さらに実務経験なども必要と言われてしまうと、まったくのゼロから家族心理士を目指す人にはかなり遠い道程に感じられるのではないでしょうか。
実際、現在何の資格もないところから家族心理士になろうと考えると、家族相談士の資格を取るために必要な講義の受講条件(看護士や教師として働いていることなど、家族援助の必要性がある仕事に就いている、心理学や福祉などを専攻する学生である等)を満たすか、認定カウンセラーなどになるために心理学系の大学などを卒業するところから始めなくてはならないので、最短でも3年以上はかかります。
すべてがうまく行ったと仮定して3年なので、実際はそれ以上にかかるケースのほうが多いでしょう。
学生になるのはもちろん、家族相談士になるための講義を受講をするにしても、時間だけでなくかなりの金額もかかってきます。
家族支援専門のカウンセラーとして仕事を続けていくうちに条件を満たすことは難しくないけれども、家族心理士になることを目指すと大変である、という資格だと言えるでしょう。
受験にかかる費用は?
気になる受験にかかる費用は、以下のようになります。
認定申請書類請求費用 | 1,100円 |
認定審査料 | 22,000円 |
資格登録料 | 33,000円 |
試験を受けて、家族心理士となるには56,100円かかります。
安い金額ではないので、家族心理士の資格を受験するにはそれなりの覚悟が必要になりそうですね。
資格の更新の際には、33,000円(申請費用11,000円と更新登録費用22,000円)と、研究実績を証明する書類が必要となります。
家族心理士と家族相談士の違いは?
家族心理士についてここまで説明してきましたが、よく似た資格である「家族相談士」と何が違うのか、と考える人もいらっしゃるのではないでしょうか。
先程の「家族心理士の受験資格」にも家族相談士が出てきたことからわかるように、家族心理士は家族相談士の上位資格となります。
2020年4月現在、家族心理士は150名、家族相談士は2188名が認定されています。
家族心理士も、家族相談士も、対象としている家族問題、つまり子育て支援、介護などについては同じです。
資格によって、実際に行う業務にも差があるわけではありません。
ですが、家族相談士は学生など、実際の臨床経験がなくとも取得が可能です。
それに対して家族心理士は、実際に家族問題などに関するカウンセリングなどを専門的に行っていないと資格を取得できません。
研究実績も必要となっていましたね。
簡単に言えば、
・家族心理についての知識とカウンセリング能力があることを示す資格=家族相談士
・知識とカウンセリング能力があり、実際に家族支援をしてきた、研究をしてきたことを示す資格=家族心理士
と言えるでしょう。
ただし、家族相談士としてキャリアがあるけれども家族心理士の資格を取っていない人や、家族相談士になる前から家族支援を長年行っている方もいらっしゃるので、一概に「家族心理士でないなら臨床経験がない、研究をしていない」ということはできません。
【まとめ】家族心理士のなりかた
家族心理士とは、家族が精神的に健やかに過ごせるようにアドバイスや助言を行い、また家族問題について研究していることを証明する資格です。
似た資格である家族相談士の上位資格であり、知識だけでなく臨床経験がないと取得ができません。
家族心理士のを目指したいのであれば、
・家族心理学の臨床分野で修士課程修了+1000時間以上の臨床経験
・臨床心理士や公認心理師、認定カウンセラーなどの資格+1年以上、1000時間以上の臨床経験
・家族相談士の資格+研究実績+2年以上、1000時間以上の臨床経験
が必要でした。
この受験資格を満たし、書類審査と面接審査に通ってはじめて家族心理士の資格を得られます。
個人の心理的問題の背景には、家族の問題が潜んでいることも少なくありません。
家族心理士は、そのような問題にも家族間と個人についての広い視野を持って対応できるので、需要が増えていくことが想像されます。
医療関係はもちろん、それ以外にも、教育や福祉など、家族が関係する分野において必要とされるのではないでしょうか。
これから注目の資格になることが期待されますね。