ピアノが好きで自分好みにピアノを調整したい!という方、ピアノは弾かないけど手に職を持ってもくもくと作業をする職人にあこがれる方などにおススメできる国家検定のピアノ調律技能士。
でも
「調律師って気になるけどいったいどんな資格なの?」
「音楽の資格って合格率が低いんじゃないの?」
「学校などに行かなくても独学でも取れるの?」
と疑問や不安を感じると思います。
そこでこの記事では
・ピアノ調律技能士ってどんな資格?
・ピアノ調律技能士の合格率は?
・ピアノ調律技能士は独学でも取得できるか
といったことについて詳しくお伝えしていきます。
目次
ピアノ調律技能士ってどんな資格?
調律師という言葉は聞いたことがあるけれど、「ピアノ調律技能士って調律師とは違うの?」と疑問に感じますよね。
実は調律師というものは、資格がなくても法的には誰でもなれる職業です。
しかし一方で、ピアノ調律技能士は検定に合格した人しか名乗れない技術を保証する資格になっています。
例えば知識も技術もないエセ調律師に大切なピアノを任せてしまった場合、直るどころかもっと悪くなったり、最悪壊れてしまうことがあるかもしれません。
そんなことになったらピアノをお願いしたお客様が大きな損害を被るだけではなく、きちんと知識も技術もある調律師の方々までもが信用を失ってしまう事態になりえます。
そこで、確かな技術を保証する基準として2011年9月に、厚生労働大臣から認可された一般社団法人日本ピアノ調律師協会が実施する名称独占資格となったのです。
それ以降はピアノ調律・整調・修理に関する学科及び実技試験をし、その検定で合格した者だけが〇級ピアノ調律技能士を名乗れることになりました。
そのため、資格を保有していないのにピアノ調律技能士を名乗ることは禁じられていて、違反した場合は罰金が科せられます。
そして資格には等級区分があり、試験で問われる技術は以下のようになっています。
1級:グランドピアノとアップライトピアノの調律ができること。
2級:アップライトピアノの調律とグランドピアノの一部が調律できること。
3級:アップライトピアノの基本的なが調律できること。
*ここでいう調律とは狭義の調律・整調・修理を意味します。
ポイント
ピアノ調律技能士の資格を保有しているか否か、また何級かで調律師の技術への信頼度が違う
ピアノ調律師の仕事とは
ピアノ調律師はピアノの音程を直すのが主な仕事ですが、ピアノは繊細かつ複雑な楽器なのでほかにも調整することがあります。
ピアノの専門家として業務内容は多岐にわたりますが、主に以下の4つのことをしています。
・ピアノの音程を調整する【調律(チューニング】
・鍵盤の弾き心地であるタッチを調整する【整調】
・弾いた時の音色を整える【整音】
・修理(メンテナンス)など
そもそもなぜピアノを調律する必要があるかというと、ピアノは鍵盤と連動したハンマーが絃をたたいて音が発生する仕組みとなっており、音を出す部分はとても繊細な部品でできています。
そのため内部は湿気や温度などの環境の変化に影響され、音色やタッチが変わったり絃が緩むことによって音程がずれてきてしまいます。
そこまでの症状は重症かとは思いますが、程度の差こそあれ、ピアノの状態が良くないのは弾くうえで大変ストレスになってしまいます。
そのためピアノ本来が持つ素晴らしい音色とタッチを維持するためには、定期的な点検と修理が必要です。
ピアノ調律士は絶対音感やピアノ経験者でないとなれないの?
確かにピアノ調節技能士はピアノの微妙な加減を調節する繊細な仕事なので、それらの特別な技術が必要だと思われがちですが、実はどちらも絶対に必要というわけではありません。
調律で必要な力とは?
調律師に必要なのは絶対音感ではなく、相対的音感と音を聞き分ける聴力です。
まず絶対音感とは、ある音の高さをほかの音と比較しないで識別できる能力のことを言いますが、調律の場合は相対音感と言って、音叉やチューナーどを使ってほかの音と比較したり音のうなりを聞き分けて音階を作っていきます。
音を聞き分ける繊細な聴力を維持するためには大きな音を長時間聴く、ヘッドフォンなどを使用するといったことは控え、聴力の劣化を抑えることが大事なこととなります。
ピアノ調律師はピアノを弾けないとなれない?
ピアノを調整する職人なのでピアノを弾く技術は絶対に必要ということはありません。
実際、ピアノを弾けない調律師はたくさんいます。
ただ、お客様の要望に沿ったピアノに仕上げるためにある程度の理解はあった方がいいですし、お客様によっては調律後に弾いてみてといわれる方もいらっしゃるようなので弾けないよりは弾けた方がいいというくらいです。
ピアノ調律技能士の受験資格は?
そうですね。
ピアノ調律技能士検定には1~3級があり、いずれの級からも受験することができますが、各等級ごとにそれぞれの受験資格があります。
<学科試験>
3級 | (1) 1年以上のピアノ調律に関する実務経験を有する者。
(2) ピアノ調律に関する科目が含まれるピアノ調律師協会(以下「協会」という)に認められた大学、専門高校、高専、高校専攻科、専修学校、各種学校、ピアノメーカー内のピアノ調律師養成機関を卒業、または在学している者。 (3) (2)同様協会に認められた普通職業訓練を修了した者、または受けている者。 |
2級 | (4) 3級の技能検定に合格した者。
(5) 2年以上のピアノ調律に関する実務経験を有する者。 (6) (2)の大学を卒業した者。 (7) (2)(3)の大学以外の学校等を卒業または修了し、1年以上実務経験がある者。 |
*1級の受験資格は調律に関する実務経験が7年、大学卒業後実務経験が3年、それ以外の専門高校等は卒業または終了後5年の実務経験が必要となる。
<実技試験>
各等級の技能検定において学科試験に合格した者。
この学科試験は各等級に合格してから2年以内であれば免除となります。
その他受験料、受験日程、受験場所について等詳細は一般社団法人ピアノ調律師協会ホームページをご覧ください。
ピアノ調律技能士検定の合格率は?
各等級を大まかにまとめると学科試験では約70%の人が合格し、実技試験を経て最終的に合格しているのは受験者の約35%となっています。
試験の合格基準は、学科試験が加点法で満点の70%以上、実技試験は減点法で満点の70%以上となっています。
■総合
実施年 | 申請者数 | 合格者数 | 合格率 |
---|---|---|---|
2019年 | 502 | 177 | 35.3% |
2018年 | 683 | 175 | 25.6% |
では、各等級での学科試験と実技試験の合格率を見てみましょう。
■1級:学科試験
実施年 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
---|---|---|---|
2017年 | 169 | 131 | 77.5% |
2016年 | 212 | 117 | 55.2% |
2015年 | 213 | 153 | 71.8% |
■1級:実技試験
実施年 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
---|---|---|---|
2017年 | 232 | 103 | 44.4% |
2016年 | 231 | 90 | 39.0% |
2015年 | 280 | 94 | 33.6% |
■2級:学科試験
実施年 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
---|---|---|---|
2017年 | 83 | 80 | 96.4% |
2016年 | 69 | 60 | 87.0% |
2015年 | 99 | 86 | 86.9% |
■2級:実技試験
実施年 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
---|---|---|---|
2017年 | 122 | 54 | 44.3% |
2016年 | 113 | 42 | 37.2% |
2015年 | 133 | 54 | 40.6% |
■3級:学科試験
実施年 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
---|---|---|---|
2017年 | 136 | 117 | 86.0% |
2016年 | 163 | 151 | 92.6% |
2015年 | 126 | 113 | 89.7% |
■3級:実技試験
実施年 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
---|---|---|---|
2017年 | 165 | 71 | 43.0% |
2016年 | 185 | 76 | 41.1% |
2015年 | 151 | 55 | 36.4% |
これらを見ても分かる通り、全等級で大きな差はありません。
全等級において学科試験はそこまで難しいわけではないようですが、実技試験は制限時間内で調律、整調及び修理などをしていく作業が技術を要するため、難易度が上がるようです。
ピアノ調律技能士は独学でも資格は取得できる?
ピアノ調律技能士は独学でも取得することができます。
独学での学び方は、実技は実際に調律の仕事をしながら、学科であればテキストや関連書籍、過去問題を解いて学んでいくことができます。
その一例として、実技は有名楽器メーカーや個人の楽器店などに勤め、先輩技師からアドバイスを受けながら実際にピアノを触って、実務経験をつみつつノウハウを学びスキルを身に着けていくという方法があります。
学科試験は、種類は少ないもののピアノ調律技能検定のテキストがあるのでそれを利用したり、社団法人ピアノ調律師協会が過去問題をホームページ上で3年分公開しているのでそちらで学んでいくということもできます。
ただピアノの構造は非常に複雑で、感覚的に調整していく作業なので、基本的には調律を扱う音楽大学や専門学校、養成機関などに通ってピアノの仕組みや、調律や修理の仕方などの技術をみっちり学んでいくことが一番の近道かと思います。
ピアノ調律技能士の就職先
一般的には
- 楽器店や調律事務所
- ピアノの製造工場
- 修理工場
- ピアノ工房
といった勤め先が多いです。
主な仕事内容は商品のピアノを調律、点検などですが、楽器店等だと場合によっては販売、運搬を任されることもあるようです。
ピアノ調律師は、初めのうちの年収が200~300万ほどと、決して高いとは言えません。
技術を向上させるべく日々努力をし、お客様の望んだ通りのピアノに仕上げて信頼を得て「あなたにお願いしたい」とお客様がたくさんつくようになればフリーになってもっと稼ぐということもできるようです。
ピアノ調律技能士に向いてる人
ピアノは鍵盤と弦をはじめとする約8,000個のパーツからなっており、そのメカニズムや理論をしっかり理解して調律していくとても繊細な作業です。
なので基本的には
・細かい作業が苦にならず、物の構造を把握するのが好きで、集中力がある人
・思い通りの音色やタッチに調律整音するために日々技術を磨く努力ができる人
などが向いています。
他にも、調律は力が必要な作業もあるので体力がある方、アップライトピアノを調律する際は150㎝以上ないと作業がしずらいので背が高い方にも向いています。
また、ピアノ調律師はお客様の要望を聞いてピアノを調整していく仕事ですが、「明るい音で軽いタッチがいい」と言われても、考え方や感じ方は千差万別なため、そのお客様にとって明るいとはどんな音か、どういう音を求めているのかを聞き出すコミュニケーション能力も必要となります。
調律師の仕事はどんなに技術があってピアノを自由自在に操れても、それを使う人の望みを拾えないと「良い調律師」にはなれません。その反面、パズルのピースのように全てが綺麗にはまった時の快感は、何物にも代えがたいものになることでしょう。
まとめ
ここまでご覧いただいてピアノ調律技能士について理解は深まったでしょうか?
最後にこの記事をまとめると
・ピアノ調律技能士とは国家資格であり、技術が信頼できるという証。
・合格率は各級で概ね35%前後で実技が難しい。
・独学でも学べるが学校や養成機関に通うことが近道。
(実技においては完全独学は不可能に近い)
・絶対音感がなくても調律師にはなれる。
ということがわかりました。
ピアノ調律師は決して容易にできる仕事ではありませんが、ピアノの構造の理解が深まり技術を磨くことによって、ピアノを自分が思う通りの音やタッチに調整することができるようになっていくことでしょう。
そしてお客様の希望を聞き取り、その要望通りもしくはそれ以上のピアノに仕上げられると、「次もまたあなたにお願いしたい」という気持ちが生まれ、指名されることも多くなるはずです。
ピアノもお客様も、あなたの努力の分だけダイレクトな反応が返ってきます。この反応を即みられるのは職人であり営業でもある調律師ならではの特権です。
プレッシャーもあり、決して平たんな道ではないですが、ピアノに触るのが好きで人との関わり合いが楽しめるのであれば、このピアノ調律技能士という扉をたたいて新たな1歩を踏み出してみませんか?
きっとあなたに至上の喜びとやりがいを、調律師の仕事が与えてくれることでしょう。